唾液は健康の要(市報のだ2月15日号掲載)

ページ番号 1025209 更新日  令和5年8月15日


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東京理科大学の教授、柳田信也先生にお聞きしました。

飛沫が社会的な話題となっている昨今。飛沫の元となる唾液の本来の役割に目を向けてみることも重要ではないでしょうか。唾液は、私たちの口腔から全身の健康を守る役割をしている大切な分泌物です。外に飛ばすのは芳しくありませんが、身体内の重要な働きに意識のベクトルを向けてみましょう。

唾液の仕組みと役割

一般成人において、唾液は1日に1リットルから1.5リットルも分泌されると言われています。口の中に食べ物が入った際の触覚や温度などの物理的な刺激によって分泌が促されます。また、食べ物を咀嚼することでも唾液分泌が起こることも誰もが良く経験していることであるかと思います。さらには、レモンや梅干しなどを見たり、場合によっては想像をしたりしただけでも口の中に唾液が溢れてくるような感覚を覚えたことがあるのではないでしょうか。このように特にその働きを意識することが無くても、味覚や視覚、咀嚼などの刺激によって唾液は常に分泌されています。唾液は、口腔付近の3種3対の大唾液腺からその95パーセント程度が分泌されることがわかっています。大唾液腺とは、耳下腺、顎下腺、舌下腺です(下図)。

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私たちの体内における唾液の働きは主に以下の2つにまとめることができます。

消化器系機能のサポートをする働き

  1. 嚥下をしやすくする
    唾液は口の中の食物に水分を与えるとともに、ムチンという粘液成分によって食塊(噛み砕かれた食物の塊)を潤滑化させ、飲み込みやすくする働きがあります。加齢によって唾液の分泌量が落ちるとうまく飲み込めなくなるのはこのためであると考えられます。
  2. 消化酵素の分泌をする
    唾液の中にはα-アミラーゼという消化酵素が含まれています。しかし、実際には食物が口腔内に留まる時間は非常に短時間であり、口の中で消化が活発に行われることはありません。一方で、「よく噛んで食べましょう」とか「50回噛んでから飲み込もう」などと子どものころに言われたように、口の中に滞在する時間を長くすれば消化酵素が働く時間を長くすることができるかもしれません。先人の知恵は生理学の成果に迫るものがあります。また、よく噛んでいるとごはんが甘く感じられる経験がある人もいるかと思いますが、これも消化酵素の働きでデンプンが麦芽糖に変換されたことが原因であると考えられています
  3. 胃酸の中和や緩衝効果
    唾液はそのほとんどが食事中に分泌されます。食間にも非常に少ない量の唾液が分泌されていますが、食事中に分泌される唾液は量も質もそれとは異なることがわかっています。特に、食事中に分泌される唾液には重炭酸イオンやカリウムイオンなどの濃度が高く、アルカリ度が高いようです。このアルカリ性であることは、食道においてそこへ逆流してきた胃液(酸性度が高い)を中和し、緩衝作用を示します。胃酸の逆流は胸やけや食道炎の原因になりますので、非常に重要な働きです。

免疫機能や衛生効果

  1. 口腔内や歯の洗浄効果
    唾液は水分が99パーセント以上で構成されています。この水分によって、口腔内や歯に付着した食べかすを洗い流す役割があります。実際に、唾液の分泌量が少ないとむし歯になりやすいと言われており、この洗浄効果が重要であることがわかります。
    また、唾液の中には口腔を細菌から守る物質、リゾチームや免疫グロブリンAが多く含まれており、溶菌作用や免疫機能にも唾液分泌は関連します。動物がケガをした時などに傷口を舐める行動をするのは本能的にこの働きを知っていることによる自己治療行為なのかもしれません。
  2. その他の衛生効果
    その他にも前述したムチンなどの粘性物質の働きで非常に硬い歯によって口腔内が傷つかないように保護する働きや、唾液内にはカルシウムやリンなどの無機質が含まれていることで歯の石灰化を促進する働きがあると言われています。唾液は、私たちの健康を保つために非常に重要な物質であるとわかります。
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ドライマウス(口腔内乾燥症)

前述したように私たちの健康に非常に重要な役割を持っている唾液ですが、その分泌量が少なくなり、口腔内が乾燥するとさまざまな症状が出ると言われています。それをドライマウス(口腔内乾燥症)と呼びます。ドライマウス研究会の定義によると、ドライマウスとは「広い意味での口腔乾燥症は唾液分泌の低下だけでなく、口が乾いていると自覚する症状すべてを指すことになります。また、狭い意味では、唾液の分泌が低下して口が乾いている症状を言います。」と示されています。さまざまな原因により主に唾液の分泌量が少なくなり、口の中が乾燥状態を主観的もしくは客観的にとらえた症状であると言えます。ドライマウスになる原因は、糖尿病や高血圧症、腎臓疾患、がんなどの全身性の疾患、それに伴う投薬、ストレスや自律神経系の障がいなどの他、口呼吸や喫煙等の生活習慣/行動まで多岐に及びます。何度も申し上げますが、唾液は私たちの身体にとって重要なアンサング・ヒーロー(歌って称えられることのない英雄)です。たかが口が渇いているだけだと油断することなく、口の渇きが気になる場合には歯科医師をはじめとした専門医の診療を受けることをオススメします。

唾液の分泌量を保つために必要なこと

口の渇きが気になる場合、どのようなことをして予防、改善を図っていけば良いでしょうか。ここでは主に2つのことに注目をしてご紹介をいたします。

リラックスすること

唾液分泌量が少なくなる原因はさまざまですが、精神的な理由が影響していることが少なくないようです。それは唾液分泌の生理学的メカニズムからも推測ができます。私たちのさまざまな生理反応は自律神経(交感神経と副交感神経)のバランスによって保たれていることはよく知られているかと思います。また、ストレスなどの刺激には交感神経が働き、アクセルのような仕事をするのに対し、それを抑制したり、リラックスしたりする際には副交感神経が働きます。唾液の分泌は、食事中に主に起こることは既に述べましたが、この反応は副交感神経によって支配されています。こころを落ち着かせてリラックスしながら食事を摂ると副交感神経が優位になり、唾液の分泌量が増加します。一方で、ストレスなどによって交感神経が活性化されると、細胞内の反応により唾液の分泌は低下します。「口角泡を飛ばす」とよく言われますが、激しい意見のぶつかり合いで興奮した人の口の中は唾液量が減少してネバついた状態になり、泡を吹くようになっていると思われ、まさに言い得て妙といった感じです。

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作家の五木寛之氏はベストセラー「大河の一滴」のなかで、食べてすぐに歯を磨く行為は確かに歯の衛生だけを考えたら適切かもしれないが、食後にケーキを食べてリラックスしてソファーで寛ぐことを忘れてしまってはトータル的には健康を損なうのではないかという内容を記しています。まさにそのようなリラックスした状態によって健康が保たれる仕組みを生き物は有していると考えられます。

よく噛むこと

よく噛むこと、咀嚼の重要性については本コラム2019年10月号(リンク)「お口の健康が全身の健康」でも紹介しましたが、唾液の分泌にも咀嚼は非常に重要です。Andersonらは非常に興味深い研究の成果を報告しており、噛むときに使われる顔面の筋肉である咬筋の働く割合、つまり咀嚼の強さと耳下腺からの唾液の分泌量は密接に相関関係にあることを示しています(Anderson and Hector, Journal of Dental Research, 1987)。この研究成果から考えると、よく、そして強く噛むことで唾液分泌量は維持できる可能性があります。

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また、高崎らの報告によると、薬剤で唾液分泌量を低下させ、口渇状態にすると咀嚼機能が低下することが明らかになっています(高崎ら,日本補綴歯科学会誌,2003)。これらの研究成果を総合的に考えると、よく噛むことで唾液分泌は維持され、唾液があることで咀嚼は維持されると考えることができ、切っても切れない関係があることがわかります。
よく噛むことで咀嚼に必要な筋肉をたくさん動かすことや唾液腺マッサージといわれる方法もあるようです。市のシルバーリハビリ体操では、嚥下体操や発声練習などのプログラムがあり、我々の健康を守ってくれる唾液分泌量の維持・改善に役立つと考えられますので、積極的に参加してみましょう。
飛沫拡散防止を気にせずに大声で歌うことができる世の中に早く戻ってほしいものです。

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電話:04-7123-1092


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